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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)17号 決定 1956年4月30日

参加申出人 仙台市選挙管理委員会

代表者委員長 高柳真三

参加申出人代理人 坂千秋 外二名

原告 安斎久吉 外八名

訴訟代理人 坂千秋 外六名

被告 宮城県選拳管理委員会

代表者委員長 高橋林造

訴訟代理人 海野普吉 外三名

補助参加人 佐藤暉雄 外二名

代理人 沼倉俊夫 外一二名

主文

参加申出人の本件参加の申出を却下する。

理由

参加申出人の本件申出の要旨は、参加申出人である市の選挙管理委員会は、市長の選挙の選挙及び当選の効力に関し、選挙人から県の選挙管理委員会を被告として提起した本件訴願の裁決の取消を求める訴訟につき、その訴訟の結果に利害関係を有する第三者であるから、民事訴訟法第六十四条の規定により原告である選挙人を補助するため参加の申出をするというにある。

しかし市の選挙管理委員会は、右のような市の公職の選挙の選挙又は当選の効力に関する訴訟につき、民事訴訟法第六十四条の規定による参加人たる適格を有しないものといわなければならない。

けだし選挙に関する争訟は、選挙の公正を保障するため一般の選挙人又は候補者に争訟提起の権利を認めたいわゆる民衆的な争訟に属するものであるが、公職選挙法第二百二条第二百三条第二百六条第二百七条の規定によると、市の公職の選挙の選挙又は当選の効力に関する争訟については、訴訟の提起は異議の決定及び訴願の裁決を受けた後でなければこれを提起することができないものとし、訴訟の前審として経なければならない異議及び訴願の手続を定めている。即ち市の公職の選挙の選挙又は当選の効力に関し異議がある選挙人又は候補者は、先ず市の選挙管理委員会に対し異議の申立をすることができ、その決定に不服がある選挙人又は候補者は更に県(都道府の場合も同じ)の選挙管理委員会に対し訴願を提起することができるものとし、これらの争訟に対してはそれぞれ市及び県の選挙管理委員会が審判機関として判断をすべきものとしているのである。これによると、争訟の審判に関しては、明かに二審級制が採られているのであつて、この場合における県の選挙管理委員会と市の選挙管理委員会との関係は、その審級制上、上級下級の関係にあるものといわなければならない。このように県の選挙管理委員会と市の選挙管理委員会との間に争訟の審判機関として上級下級の関係が設定された場合においては、争訟審判制度の機構上、下級の市の選挙管理委員会社上級の県の選挙管理委員会の判断に拘束されこれに服従しなければならないのであつて、たとえ県の選挙管理委員会の判断が自己の所信に反するものであつても、これを主張して県の選挙管理委員会に対抗することは許されるものでない。従つて県の選挙管理委員会の訴願の裁決に不服がある選挙人又は候補者が訴訟を提起し得ることは明かであるが、市の選挙管理委員会は、右裁決を不服として訴訟を提起する原告たる適格を有するものではないのである。又この訴訟は、選挙の公正を保障するために認められたいわゆる民衆訴訟であるから、その当時者は実質上の権利関係に基いて当事者となるものではないのであるが、前示の公職選拳法の法条によると、右訴訟においては、前審の上級の審判機関である県の選挙管理委員会が被告となるべきものであつて、市の選挙管理委員会は被告たる適格を有しないものと解するを相当とする。これを細説するに、本件のように市の選挙管理委員会の異議の決定が県の選挙管理委員会の訴願の裁決によつて取消された場合においては、右決定の効力は消滅し、従つてその裁決の取消を求める訴訟については、その裁決をした審判機関である県の選挙管理委員会が被告となるべきもので、市の選挙管理委員会が被告たる適格を有しないことはいうまでもない。其の他の場合、たとえば、市の選挙管理委員会の異議の決定が訴願の裁決によつて維持された場合においては、右決定はなおその効力を有するわけであるが、この場合についてみるに、市の選挙管理委員会は地方自治法第百八十六条第二項により県の選挙管理委員会の一般的な指揮監督を受けるものであり、その指揮監督の範囲は、選挙に関係する管理事務が其の性質上他の行政事務に比し更に画一的且厳格な取扱を要求されるものであることに鑑みると、一般に市の選挙管理委員会の固有の選挙管理事務についても及ぶものと解するのが相当であるから、この場合においても上級の審判機関である県の選挙管理委員会を被告とするのが相当であつて、市の選挙管理委員会を被告とする必要はなく且これを相当でないといわなければならない。従つてこの場合においても市の選挙管理委員会は被告たる適格を有しないものといわなければならない。

そこで民事訴訟法第六十四条の規定する参加の場合についてみるに、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するためその訴訟に参加することができるのであるが、その参加人たる適格を有する第三者は、訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する地位にあるものに限られることは明かなところである。前示の市の公職の選挙の選挙又は当選の効力に関する訴訟につき、市の選挙管理委員会がその訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する地位にある第三者に該当するかどうかの点についてみるに、市の選挙管理委員会は、右訴訟について、原告又は被告たる適格を有するものではなく、又実質上の権利関係を有するものでもないことは、すでに説明したとおりである。しかして市の選挙管理委員会が、右訴訟の結果につき、行政事件訴訟特例法第十二条の規定による関係行政庁として、その確定判決に拘束されることは明かなところであるが、市の選挙管理委員会は県の選挙管理委員会に対する関係においてその下級の審判機関であり且その一般的な指揮監督を受ける地位にあることも、すでに説明したとおりである。しからば、その県の選挙管理委員会が右訴訟に形式上の被告として関与し、選挙の公正を保障するために審判機関としての立場を弁明している以上、右のように当事者適格も実質上の権利関係もない下級の審判機関である市の選挙管理委員会が更に形式上の資格で訴訟に関与し当事者と別個の立場で訴訟を追行する利益は、毫も存しないものといわなければならない、尤も市の選挙管理委員会は、右訴訟の結果、県の選挙管理委員会の訴願の裁決が維持され又は取消変更されることにより、或いは再び新たな選挙の管理執行の義務を負担し或いはこれを免れる等の影響を受けることは争われないが、市の選挙管理委員会は、県の選挙管理委員会の下級の審判機関として且その一般的な指揮監督を受ける地位にあるものとして、訴訟の結果による選挙の公正を実現し行政法規の正当な運用を図るために職務の執行をすることは当然であつて、これらのことは右職務執行上の関係に過ぎずこれを法律上の利害関係ということはできないのである。又市の選挙管理委員会は、選挙の直接の管理執行者としてこれに関する多くの資料を有するものであることは疑いないところであるが、このことは法律上の利害関係に該らないのは勿論これによつて前示法条による参加を許し得るものではない。以上により市の選挙管理委員会は、前示訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する地位にある第三者に該当しないものと認めるから、原告たる選挙人を補助するためにも、又被告たる県の選挙管理委員会を補助するためにも、参加人たる適格を有しないものといわなければならない。

右の理由により、参加申出人が原告等を補助するため民事訴訟法第六十四条の規定により申出でた本件参加の申出は、参加人たる適格を欠く不適法なものであるからこれを却下すべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村木達夫 裁判官 石井義彦 裁判官 上野正秋)

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